デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

焼きおにぎりの思い出

暑さもピークを過ぎ、細菌性食中毒の発生も下火になりつつある今日この頃ではありますが、ちょっと食中毒の話なんかを一つ。
気持ちの悪い描写もありますので、ご注意を。



















10年以上前、僕は同僚らと一緒にとある居酒屋(今はもう無い)で巨大な焼きおにぎりを食べていました。
見た目や味や臭いにおかしなところは何もなく、とても美味しかったのを覚えています。
楽しく飲み食いして家に帰り、一服したところで(当時はヘビースモーカーだった)異変が起きました。


突然の嘔吐。


これまで40年以上生きてきましたが、あのような嘔吐は初めてでした。
普通は胃がもたれるとか、なんか気持ちが悪いとか、そういう過程を経て、最終的に来るべきモノが来るわけですが、その時は「なんかこみ上げてきた!」と思った直後にはもう大量嘔吐してました。
立ち上がってトイレに駆け寄るも2歩目で手遅れに。
気持ち悪くない嘔吐というのはホントに生まれて初めての経験でした。
まさに「嘔吐反射のスイッチがポンと入った」感じでした。
1回吐いた後は特に体調におかしな点もなし。


喫食した食品が焼きおにぎり、3時間で嘔吐した、と言う時点で、ちょっとでも病原細菌について学んだことのある人なら検査するまでもなくほぼ正解(原因)にたどり着くことでしょう。


典型的な黄色ブドウ球菌(ブ菌)の嘔吐毒素による毒素型食中毒です。


おそらく不衛生な素手握って、作り置きして(室温放置して)いたモノに味噌塗って表面をこんがり焼いて提供したのでしょう。
せめて低温で保存していればよかったのですけれども、いったん菌が増殖して毒素が大量に生産されてしまうと、その後にいくらしっかりと加熱してもダメで、一度産生された嘔吐毒素は分解・失活しません。
おにぎり握るときは使い捨てのビニール手袋着用、作り置きはしないか、短時間なら冷蔵庫で保存。
この2点を守ってさえいれば防げた悲劇です。
当時は食中毒原因菌に関する知識も無かったので「焼きおにぎりに当たったな」とは思いましたが、特にお役所に届け出たりはしませんでした。


あわれな大学院生が深夜のアパートで一人床掃除をすることになったのは言うまでもありません。
僕の場合は半べそかいて床掃除で済みましたが、これが幼児や高齢者ですと吐物による窒息や誤嚥性肺炎など、命に関わる事態も起こりえます。
「食べる前に加熱さえすれば大丈夫」という間違った思い込みは捨てましょう。


毒素型はまだマシです。
表面こんがりでも中心部は加熱不十分で、そこに生き残ったごく少数の細菌が原因となって重度の食中毒症状を発症するなんてケースも多々ありますからね。
飲食店でもまれに?冷凍品をそのまま加熱したのか(しかも加熱不十分で)ハンバーグを切ったら中心が明らかに加熱不十分でまだ赤くてひんやりなんてことも。
あの時はホントにぞっとしました。


生菌やウイルスによる食中毒ではさらに恐ろしい事に、同居の家族や職場の同僚などに二次感染を引き起こすこともあります。
ウシが禁止されたから今度はブタだと、ブタの生レバーを喜んで食べている人もいるようですが、食べた自分が発症しなくても便中に大量の病原菌が排泄されていることがあります(不顕性感染)。
それによって家族や身近な人が二次感染することもあると言うことを、ぜひ考えていただきたいと思います。


機会がありましたらこの次は忘年会シーズンや鍋物の季節に猛威をふるうノロウイルス食中毒との接近遭遇について書いたみたいと思います。