デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

性行為感染症についての知識と予防(その1)

8月17日にツイッターでいただいた宿題です。
(@nqjjqさん @lunatic_orkidiaさん ありがとうございます )

一般的に性行為感染症は、男→女へ感染する確率が高く、症状は女の方が重いものが多いといわれています。
女性側は相手の体液を体内にとどめる構造になっていることから、病原体と接触する時間が長いからでしょうね。
そのような状況で、性行為感染症の予防のために、感染症そのものの概説と、男性側に何ができるかについて思うところを述べようというのが今エントリのテーマです。

はじめにHPV感染で生じる子宮頸がん等について書いてみたいと思います。

ヒトパピローマウイルスはヒトにイボ(パピローマ)を生じさせるウイルスで100種以上の型が知られています。
このウイルスはインフルエンザウイルスなどと違い、エンベロープという油で出来た膜を持っていないので、アルコール消毒が効きません。
ウイルス遺伝子から作られる蛋白質のいくつかは、重要な癌抑制遺伝子産物であるp53やRBと結合してその作用を阻害することで、感染細胞をガン化へと導きます。
ただ、すべてのHPVが健常者にガン化を引き起こすというわけでもなく、皮膚上皮に感染するタイプは癌についてはあまり問題にされません。
粘膜上皮に感染するタイプのうち16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,73,82型などの型がガン化するリスクが高く、6,11,40,42,43,44,54,61,70,72,81型などはガン化リスクが低いことが知られています(ガン化しないあるいはガン化率が低い)。

子宮頸がんの99%からHPV遺伝子が検出される(HPVに感染している)ことからこのウイルスが子宮頸がんの原因であることは明らかですが、それだけでなく肛門、直腸、外性器(陰茎他)などにも癌を生じさせること、さらに口腔がん、咽頭がん、舌がんの原因ともなり、肛門性交や口腔性交を介した感染が起きていることも示唆されています。

これらはがん細胞からのウイルス遺伝子検出などの直接的な方法で証明されているだけでなく、患者集団と非患者集団との大規模な比較(疫学解析)などからも支持されています。
例えば、北欧の研究では、性交開始年齢が早いこと、性的パートナーの数が多いこと、肛門性交経験があることなどと、直腸癌発生との相関が示されています。


これらのことを踏まえると、「性行為(擬似的なもの・同性間のものも含む)を一切しない」というのが究極的な予防と言うことになりますが、コレは現実的ではないですよね。
それをやや弱めた「結婚まで純潔を守り、その人と死ぬまで添い遂げ貞操を守る」というのもある。
そりゃそうできれば理想ですけどねぇ。
コレを徹底するのは動物的な衝動は理性ではいかんともしがたい部分があると思うし、離婚して再婚とかできなくなっちゃうのも困る。
だから「苦労なくそうできるならその方が良いんですけどねぇ(無理でしょw)」というのが僕の思い。
純潔教育とかはあくまで個人の主観や価値観の問題で、子や他人に強制することは難しいし、徹底するには全寮制の女子校に隔離するとか、座敷牢にでも閉じ込めないと無理だ。
それでもやるときはやっちまうだろうし、同性同士だってやることやれば感染する。
この考えは、右翼的懐古主義的、そして男尊女卑的思想な人々にはすごく受けるんだろうけど、
「(主に女が絶対的に)貞操を守れ!」→「貞操さえ守れば健診やワクチンは不要!」→
→「健診とワクチンで性の乱れが増長される!」という困った思想に走る人がいることだと思う。
性行為の相手選びは慎重に、というのと、健診とワクチン接種で万が一に備えるのは相反するものではない。
健診とワクチン接種の効果が100%出ないことをもって反論とする人も見かけるが、癌で死ぬ人が何割かでも減るなら、100%有効でなくても良いじゃないかと声を大にしていいたい。
公費で健診やワクチン接種をするというのは、まさにそういうことだ。
(個人じゃなくて社会全体での費用対効果を問題にしてるんだよ)

長くなったけど、現実的対応としては、以下のようなあたりかと思っている。


男女共通:性行為の相手は必要最小限にし、なるべく若いうちは我慢するw
(援助交際=売春目当ての出会い系とか勘弁してくれorz)
できれば男女ともに初体験前に性行為感染症の検査を一通り受けるべきだと思う。
異常があれば完治するまできちんと治療。
(性行為以外で既に感染してる可能性もあるからね)
ただコレには親の理解が不可欠なので、なかなか難しいのだろうけども。


女性側:子宮癌検診、子宮頸がんワクチン接種を受ける。


男性側:性風俗を極力利用しない。
性風俗で働く人々の性行為感染症の感染率は当然ながら高い。
不特定多数に性的サービスを提供している人との行為はリスクが高いよ。
あとはホントなら子宮頸がんワクチンの接種は男にもすべきと思う。
けど費用対効果とか考えると公費接種になる事は当分なさそうだ。
(ワクチンメーカーも儲からないのに臨床試験はしないだろう)

第1弾のHPV編&男の責任編はこの辺でいかがでしょうか。


余談的追記:
今みたいに法律の穴を黙認して事実上売春を非違法状態にして置くくらいなら、合法化した上で感染症の検査などを徹底的に管理して、さらに売り上げに対して高い税を取り、そのお金を性行為感染症対策に使うとかすればいいと思う。
筒井康隆か小松左京が売春婦を国家公務員にして国営慰安所を作って...とかいうショートショートを書いていた気がするなw
あと、オリエント工業的精密ロボットで性風俗産業を立ち上げるという一大プロジェクトを担当技術者の目から描いた「プロジェクト・ゼロ」という名作もある(毎回消毒するから病気の心配はないというのがすばらしいw)。
絶版状態だけど古本屋で見つけたらぜひ買ってほしい。
SF作家恐るべしw

プロジェクト・ゼロ (ハヤカワ文庫JA)

プロジェクト・ゼロ (ハヤカワ文庫JA)

この本の感想は、段ボール箱の山から本書を発掘できたらぜひ書きたいと思っている。