デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

ALSのモデル動物ができたようだ

東京医科歯科大学のチームが筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)の動物モデルの作成に成功した。
プレスリリースはこちら


ALSに関与すると考えられているTDP-43という蛋白質を動物の神経で過剰に作らせてみたところ、ラット(いわゆるドブネズミ)では表面上なにも起きなかったが、カニクイザルではヒトのALSと極めて類似した病状を示したというもの。
これまでALSにはよい動物モデルがなかったため、治療法や発症メカニズムの研究が困難だったから、高価で飼育に手間がかかるサルを使うとはいえ、この研究の意義は大きい。
まさかいきなり人体実験というわけにはいきませんからね。
病状がサルで再現されてラットでは再現されなかったという点から、発症メカニズムにつながる手がかりが得られるのではないかとも思うので、その点でも今後の発展に大きく期待できそうだ。

ちなみにALSは「宇宙兄弟」にも出てくる病気なので、昔よりは知名度は高まっているのかな。


大学のプレスリリースにはこうある。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)はアルツハイマー病、パーキンソン病に次いで多い神経難病です。大脳運動野1次神経細胞と脊髄前角運動神経細胞が選択的に侵され、四肢の筋肉が進行性に萎縮して手足がまったく動かなくなって寝たきりになり、しゃべることもできず、ふつう数年以内に呼吸筋が麻痺して死に至ります。高度な運動障害の一方、意識や感覚は正常であるため、苦痛が非常に大きく治療方法が全くないことから、多くの患者さんは人工呼吸器による延命を希望せず死を選ぶ悲惨な疾患です。

意識ははっきりしているのに、だんだんと手足が動かなくなり、呼吸ができなくなって死に至る。
人工呼吸器をつけてもさらに麻痺は進行し、ついには眼球すら動かせなくなるという。
(眼球が動かせないと、意思疎通が非常に困難になる)
そこまで進んでも意識も感覚もはっきりしているという、想像できない苦痛。
今現在闘っている人には申し訳ないが、僕だったら耐えられなくて自殺しちゃうんじゃないかとも思う。
あるいは安楽死が合法ならそれを選ぶかもしれない。


じつはかなり前(1993年)にこの病気(というか家族性ALSの一部)の原因遺伝子としてSOD1という酵素が同定されていたのだが、SOD遺伝子の変異はごく一部の患者(全体の2%くらい)でしか見つからず、孤発性ALSや他の家族性ALSの原因遺伝子は依然として不明だった。
2006年に研究で孤発性ALS患者の神経細胞に異常蓄積している蛋白質の構成成分が、エイズウイルスのRNAと結合する蛋白質として見つかったTDP-43であることが報告され、さらに2008年にはSOD型とは異なる家族性ALS患者でもTDP-43に遺伝子変異があることが判明した。
ALS患者の神経細胞にTDP-43が蓄積しているというだけでは、TDP-43の異常蓄積が直接の原因なのか結果なのか単なる副産物なのかはわからない(状況証拠的にはかなりクロに近いのだが)。
今回の研究で神経細胞でのTDP-43の異常な蓄積がALSの発症に直接関わっているらしいことが、わりとはっきり示された(のだと思う)。
ちなみに今回の研究でAAV1ウイルスに組み込んで使われたTDP-43は、厳密には野生型ではなく、野生型遺伝子の末端に標識としてGFP遺伝子をつないだもの。
このTDP-43-GFPは家族性ALSで見つかった変異型TDP-43と同様に、真の野生型と違って細胞質に局在して蓄積しやすい傾向があるという(真の正常型は過剰に作らせても細胞質に蓄積したりしない)。


論文の概要(英文)はこちらで読める。
http://brain.oxfordjournals.org/content/early/2012/01/17/brain.awr348.short?rss=1
全文を見るには雑誌を購読するか1日アクセス権を買うしかないが、30ドル以上するので迷っているところ。


日本語の資料(専門家向け)としては、第51回日本神経学会総会(2010 年)の要旨などがWeb上で閲覧可能です。
http://www.jstage.jst.go.jp/browse/clinicalneurol/50/11/_contents/-char/ja/
(サルモデル自体は2010年には既にできていたようですね)