デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

子宮頸がんワクチンに関する誤報とそれを鵜呑みにしたデマ(2件追記)

これまでにインフルエンザワクチンや子宮頸がんワクチンで不妊化するという陰謀論系のデマについて解説してきた。

先日ツイッター上で新たな子宮頸がんについてのデマ誤解を見つけた。
それによると、インドでの子宮頸がんワクチン「ガーダシル」(メルク社のHPV6・11・16・18型の4価ワクチン)の
治験で、120名中4名の子供が死亡したというショッキングな内容だった。
「インド 子宮頸がん ワクチン 死亡」ググってみると、けっこうな数のサイトでその話が紹介され、
「ワクチンは打つな!」「自分の子供には打たせません!」などと書かれている。
英文での検索でも同じような感じで、なんとか元ネタをたどろうとしたんだが、なかなかソースにたどり着けない。
四苦八苦しながら検索したところ、ようやく以下のサイトを発見した。

医療ガバナンス学会メールマガジンの記事子宮頸がん予防ワクチン:その有効性と安全性について
さらにこの記事で引用されているのが以下の記事。
The Hindu(インド最大の新聞)の記事 6人の子供の死はHPVのせいではない

この記事についてツイッターでつぶやいていたところ、メールマガジンの筆者である東大医科研病院の湯地晃一郎先生から連絡をいただけた。
ブログで引用して詳しく紹介したい旨をお願いしたところ、匿名でのお願いにもかかわらず、追加資料までご提供いただくことが出来た。
湯地先生、ありがとうございます。

以下、湯地先生の解説から、子宮頸がんワクチンの副作用関係部分を抜粋。

 2価ワクチンは2009年5月時点で400万人以上に接種されていると推定されています。一般的なワクチン同様、接種後に接種部位の痛み、かゆみ・腫れが生じます。また、全身的な副反応としては、疲労感や頭痛、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など があらわれることがありますが、一過性であり、数日で軽快します。なお重い有害事象として、まれにショックまたはアナフィラキシー様症状を含むアレルギー反応、血管浮腫が認められることがあります。頻度としては、注射部位の疼痛が99%,腫れ,発赤等が70-80%, 全身症状として筋肉痛が45.3%,頭痛が37.9%,発熱が5.6%,蕁麻疹が2.6%と報告されています。
<中略>
 ワクチン接種により子宮頸部前がん病変のがん化が促進されることはありません(ワクチン接種群と偽薬群で差がないことが示されています)。

 不妊についてですが、2価ワクチン(400万人以上に接種)、4価ワクチン(2300万回以上接種)で、不妊の頻度が高まったとする報告は現在ありません。8月5日、参議院予算委員会質疑でも厚生労働省側から明言されました。

 流産についてですが、米国疾病情報局(CDC)の報告では、2価ワクチンを含むその他のワクチン接種によっても、流産の危険性が増すことはないとされています[19]。英国医学誌のBMJでは、2価ワクチン接種後の妊婦の流産リスクを解析した報告が掲載されていますが、ワクチン接種と流産の危険性に関連なし、と結論づけられています [20]。子宮頸がん予防ワクチンは前述のように11-14歳への接種が最も効果的とされており、本来妊婦さんを対象としたものではありません。また一般的に妊婦さんへの薬剤投与は、利益が不利益を上回る場合のみ慎重に行われます。そもそも、妊婦さんに対する本ワクチン接種は通常行われません。
<中略>
 死亡例ですが、2価ワクチンを接種後に亡くなった事例が、臨床試験時に2例、発売後に1例報告されています。検視の結果ワクチン接種が死亡原因ではなかったと結論されています。臨床試験時の2例は骨肉腫と糖尿病による死亡、1例は心臓・肺の悪性腫瘍による死亡であり、すべてワクチン接種前から存在していた疾患です[27]。
<中略>
 インドでの4価ワクチンの治験に関連する情報が広まっています。これは、120名の被験者のうち4名が死亡したという誤訳情報が広まったものです。DNA Indiaというサイトの記事が引用されています[28]。
 実際の内容は以下の通りです。32000名の被験者が予定された治験において、母集団は不明ですが、120名に有害事象が観察され、うち4名が死亡した、というものです。
 その後の調査により、24,705名の被験者のうち6名が死亡し、死因はウイルス熱、溺死、自殺、マラリアに伴う貧血、蛇毒であり、ワクチン接種とは関係なかった、と結論づけられています[29]。

このように、120名中4名が死亡したとする説は、数千名に治験を行ったところ、120名で何らかの副作用があり、そのうち6名が死亡したが、死因はワクチン接種とは無関係だったという情報の誤訳・誤解によるものであることがわかります。


85%の女性にワクチン接種と健診を実施すれば、子宮頸がんをほぼ100%予防あるいは早期発見出来ると試算されており、ワクチンと健診の両輪で子宮頸がんによる死や子宮全摘出といった悲しい事態を防ぐことが可能となります。

接種適齢のお嬢さんをお持ちのみなさんには、どうか怪しい伝聞に惑わされず、ワクチンの極めて小さいリスクと極めて大きい利益を冷静に考えていただきたいと思います。
(そのうちに続報を書くかもしれません)


情報提供を受けて追記:
Lancetの記事で死因がワクチンによるものではないことを指摘しているソースは、
「4人の死は子宮頸がんワクチン治験の瑕疵によるものではない」
Sinha K. Four deaths not due to flawed cervical cancer vaccine trial. Times of India April 9, 2010. http://timesofindia.indiatimes.com/india/ Four-deaths-not-due-to-flawed-cervical-cancer-vaccine-trial/ articleshow/5776065.cms
及び
「インドの少女たちは子宮頸がんワクチンのモルモットではない」
Anon. Indian girls not guinea pigs for anti-cervical cancer vaccines: Azad.
Times of India April 22, 2010. http://timesofindia.indiatimes.com/india/ Indian-girls-not-guinea-pigs-for-anti-cervical-cancer-vaccines-Azad-/ articleshow/5845395.cms


コメントを受けて追記:
誤報とデマへの反論という本題の趣旨とはちょっと外れますが、重篤な副作用についてコメントをいただきましたので、厚労省の資料を探してみました。


厚生労働省の資料「子宮頸がん予防ワクチン(サーバリックス)の副反応報告状況について」(pdfファイル)


重篤症例の一覧(平成21年12月販売開始から平成24年8月31日までの報告分)などが確認できます。
接種の母数を考えても、予想以上の数の報告があり、正直かなり驚きました。
ただ、
"今回の接種事業では、接種との因果関係の有無に関わらず、「接種後の死亡、臨床症状の重篤なもの、後遺症を残す可能性のあるもの」に該当すると判断されるものを報告対象としている"
"因果関係と重篤度については「報告医評価」です"
ということなので、「関連あり」のケース全てが本当に「関連あり」なのかは、複数の専門家の検討を待つ必要があるとも感じました。
明らかに接種のメリットを上回るデメリットが認められたのであれば、積極的な情報公開と接種の一時中止などの対応が必要となることもあるでしょう。
(なお日本脳炎ワクチンの場合、死亡例を重く見て(新しいワクチンがすぐ認可されるだろうという甘い見通しもあったんだろう)定期接種を中断した結果、医療現場や接種対象年齢の子を持つ親(僕もだ)に大きな混乱をもたらしました。)
厚労省には速やかな検討と結果の積極的な公開をするよう強く願います。
接種するにせよしないにせよ、正しいデータがなければ判断に迷います。



他にこんなのもありました(参考まで)
平成24年3月31日までのインフルエンザワクチン及び子宮頸がん予防ワクチン等3ワクチンの接種に関する副反応報告の状況等(pdfファイル)


新しい情報があれば今後も追記する予定です。