狂牛病の原因はプリオンではない? 科学者が証明。
人民日報をそのまま鵜呑みにしたからなんだろうか?
記事の内容はそれほど変ではないんだが、タイトルが思いっきり間違ってる。
サイエンス誌の要約を見ると、全く逆のこと書いてるんだが...。
最後の一文を引用”Thus, as postulated by the prion hypothesis, the infectivity in mammalian prion disease results from an altered conformation of PrP.”
よーするに、
「プリオンが(狂牛病などのいわゆるプリオン病の)病原体そのものだ」
というプリオン説が証明されたということ。
狂牛病やクロイツフェルトヤコブ病などのいわゆるプリオン病については、立体構造が変化した異常プリオンタンパク質が原因(感染因子)であるという「プリオン仮説」が最有力というか、他に説得力のある仮説は無い。
提唱者のプルシナーはノーベル賞を取ったことからも多くの学者がこの説を支持していることがわかる。
しかし一部にこれに異を唱える人も存在する。
未知のウイルスによる感染が原因だとする「ウイルス説」を提唱する人としてイエール大のロマヌエリディス教授(Laura Manuelidis:ウイルス説に関する論文をPNASなどの学術雑誌に複数発表しているまじめな研究者です)*1や青山学院大学の福岡伸一教授*2が有名である。
圧倒的ともいえるプリオン説にも弱点はある。
弱点と言うよりも、未解決の問題と言うべきか。
プリオンが病原体であることを証明するためには、プリオン病にかかったマウスの脳からプリオンを純粋に取り出し、それを健康なマウスに注射して、そのマウスがプリオン病を発症させることを確認することが望ましい。
いわゆるコッホの三原則というヤツだ。
ふつうは病原体を純粋培養できるので、これを満たすことはそれほど困難ではないのだが、培養困難微生物などの場合にはこの原則を完全に満たすことは難しくなる。
プリオンの場合はそもそも生物ではなく単なるタンパクなので、純粋培養で単離することはできない。
脳をすりつぶした物をいかに精製しても、未知のウイルスが完全に取り除かれていることは証明出来ない。
悪魔の証明というヤツだ。
この点でウイルス説につけ込まれるを完全には否定できない弱みがあった。
ではプリオン説サイドはどうすべきか?
異常プリオンを遺伝子組換えで大腸菌につくらせてそれをマウスに接種→マウス発症、
となればウイルス混入を否定できる。
ところがこの方法ではなぜか正常型のプリオンしかできず、当然ながら注射してもマウスは発症しないのだ。
今回ついにイリノイ大学と華東師範大学の研究グループが、ブレイクスルーをもたらした。
大腸菌にプリオンタンパクの遺伝子を導入し(脳組織由来の未知のウイルスが混入する余地が無い)、病原性のあるプリオンを作成し、これを接種したマウスにプリオン病を発症させることすることに成功したのだ。
これでウイルス説はほぼ完全にとどめを刺されたと思う。
もちろん、感染後の病態悪化や病態の違いにウイルスが脇役的に関与している可能性は残る。
今後ウイルス説の人たちは、その辺を攻めるしかないだろう。
原著の本文を読んだらまたレポートします。
追記:
図書館に行く時間が惜しいのでオンラインで15$出して本文買っちゃいましたw
ちょっと驚いたのは、感染性のある組み換えプリオン粒子作成に、脂質とマウス肝臓由来のRNAを使っていることでした。
ウイルス説のみなさん、「そのRNA中にウイルスが!」とか言いださないように。健常なマウスのRNAです。