デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

ダウン症候群の新たな分子メカニズム

Aktというタンパク質がある。
このタンパク質は細胞の増殖にきわめて重要な働きをする分子だ。
これにリン酸基がくっつく(リン酸化される)と、Aktは活性化されてその作用で細胞は分裂・増殖する。
今回の北海道大学の論文は、Aktの働きを制御する新たなメカニズムを発見したものだ。
彼らはTTC3というタンパク質が活性化されたAktの分解を促進することを見いだした。
TTC3はユビキチンという小さなタンパク質を相手タンパク(この場合はAkt)にくっつける。
ユビキチンをくっつけられたタンパクは、プロテアソームという「タンパク質分解工場」で速やかに分解されてその役割を終える。

実はTTC3はダウン症患者で過剰になっている21番染色体のうち、ダウン症の症状と関連が高いと考えられている領域に存在している。
つまりダウン症患者の細胞ではTTC3遺伝子が常人の1.5倍存在することになる。
この論文ではダウン症患者のTTC3タンパク量は常人の1.8倍であることが示されている。
ということはダウン症患者では、活性化したAktの分解という細胞増殖のブレーキが80%もよけいに効いてしまうことになり、その結果細胞の増殖が停滞する。
ダウン症患者の体が小さい原因は不明だったが、この研究でその理由(の一部)が解明されたことになる。
もちろんこの研究(とこれまでの知見)だけでダウン症の全ての症状を説明できるわけではない。
しかしあらたな分子メカニズムの解明を積み上げていくことで、いつの日かダウン症の分子メカニズムが完全に解明され、それに基づく治療薬が世に出ることを切に願う。
ちなみにダウン症の場合「治療薬」と「予防薬」はたぶん異なる。このことについてはまた後日。

今回紹介した論文の原著(英文pdf)はここから、北海道大学によるプレスリリース(和文pdf)はここからダウンロードできる。原著が掲載されたのはCellの姉妹誌なんだが無償公開というのがうれしい。