デムパの日記

あるいは「いざ言問はむ都鳥」普及委員会

ウイルスに感染する?ウイルス

NATROMさんの記事に触発されて、去年のネタだが変わったウイルスの話を書いてみる。
NATROMさんも書いているように、ウイルスの中には宿主細胞に感染しただけでは複製できない不完全なものが存在する。そいつらは、別の特定のウイルスが持つタンパクを拝借して初めて増殖することができる。だから感覚的には寄生(相手の内部に潜り込んでいる)と言うよりは、片利共生とも言うべき関係にある(ただ乗りだね)。
このように他のウイルスの部品を拝借しないと増殖できないウイルスをサテライトウイルスという。

近年、アメーバに寄生するウイルスとしてミミウイルスのが発見された。
これがでかい!どのくらいでかいかというと、光学顕微鏡で見えちゃう!
(普通のウイルスは電子顕微鏡でないと見えません)
遺伝子サイズに至ってはちょっとしたバクテリア並みの巨大さだ。
(このウイルスより小さいバクテリアが存在する)

昨年、このミミウイルスの仲間のママウイルスというのが発見された。
論文はnatureに発表されたんだが、二番煎じの論文が載る雑誌ではない。
そこにはいかにもnature好みというか、驚くべき発見があった。
ママウイルスはミミウイルス同様に巨大なんだが、それだけではなく特殊なサテライトウイルスっぽいものが見つかったのだ。
このウイルス、スプートニクと名付けられたが、ママウイルスが感染したアメーバ内でしか増殖できないという点ではサテライトウイルスっぽいんだが、単に一部のタンパク質をかすめ取っているというのではなく、ママウイルスの増殖装置そのものを拝借しているようだ。
そのためスプートニクと共感染状態にあるママウイルスは、形態に異常を来して増殖効率が低下したり、感染・増殖能力の異常なウイルス粒子ができてしまったりするという。
さらに、一部はママウイルス内部にスプートニクが入り込むケースもあるようだ。
発見者らはこれを「ママウイルスがスプートニクに感染(寄生)されて病気になった」状態と考え、
スプートニクをウイルスに感染・寄生する新しいタイプのウイルスと位置づけ、このようなウイルスを「ヴィロファージ」と名付けた。

これが事実ならD型肝炎ウイルスの場合に比べてより本物の「寄生」っぽいが、断定するにはまだ検証が必要なように感じられる。本当だとしたら寄生の定義も考え直す必要があるかもしれない。

実際、ミミウイルスの発見で、ウイルスの定義が揺らぎ始めている(らしい)。
確かに、寄生性でゲノムサイズのきわめて小さい一部のバクテリアよりも、ママウイルスの方がゲノムサイズも大きくて多くの遺伝子を持つ。
だからバクテリアとウイルスの境界を厳密に分けるには再定義が必要かもしれない。

前衛的なウイルス学者の間ではウイルスの新たな定義として
「リボソームを持たない生命体」
「カプシドに包まれた生命体」
などというのが提唱されているそうだ。

natureの論文は有料、概要は無料だけど登録が必要なので、別の良くまとまった日本語記事をいくつか紹介しておきます。
ウイルスのなかのウイルス
ウイルスに感染するウイルス、定義を変える?
ウイルスとバクテリアの中間「ミミウイルス」、3D撮影に成功